2011年11月6日日曜日

ライカその1 僕の「ライカ夜明け前」

カメラブログをここまで書いてきて、まだ「ライカ」が出てきていない。これは大変、片手落ち。
そんなわけで、今回はライカの話。

前にも書いたが、僕がカメラマンになった30年ほど前は広告系カメラはハッセルブラッド、報道系カメラはライカというのがまかり通っていた時代。
僕もカメラマンになってすぐハッセルブラッドを手に入れたのは以前に書いた通り。
「ハッセルは仕事で使うけど、ライカは仕事では使えない。」と、ライカには全く興味がなかった。

カメラマンになって1年ほど過ぎて、安定的に仕事が入ってくるようになって経済的に余裕が出てきた頃、ちょっと気になるカメラがあった。
「ミノルタCLE」
ミノルタはライカと提携していて、それ以前に「ライツ ミノルタCL」という小型カメラをだしている。レンズ交換可能のレンジファインダーカメラで、マウントはライカMマウント。
しかしこのカメラは40ミリと90ミリが供給されていてそれ以外のレンズは基本的に使えない(本当は50ミリなどがつかえる)。
新たに発売になった「ミノルタCLE」は28ミリ、40ミリ、90ミリが供給されていて何れもライカMマウント。値段はレンズ3本とボディをセットにしても20万円ほどで、ライカのレンズ1本の値段でCLEがシステムで揃う。
今で言う「がんばった自分へのご褒美」として、一式購入したのが僕のライカの始まり。

もちろん「ミノルタCLE」はライカではない。
しかしレンジファインダーはライカ仕込みのとても明るく見やすい物で、一式揃えても普通のバッグに収まるコンパクトさが気に入った。
当時は普通のコンパクトカメラでもCLEと同じくらいの大きさがあった。コンパクトな上にレンズ交換式、まずはスナップ撮影で試し撮り。
しかし、使ってみるとちょっと違和感を感じた。
高校生になって初めて使ったカメラがペンタックスSP、以来ニコンF2、ニコンFE等一眼レフしか使ったことがない。一眼レフは撮影する状態がファインダーで見える。ピントがぼけていればファインダーでもボケて見える。レンジファインダーは中央の二重像のズレでピントを合わせる。中央部をうっかり見逃すとピンぼけでシャッターを切ってしまうことがある。これに慣れるのにしばらくかかった。
別の例えでレンジファインダーを説明すると、雑誌を丸めて筒状にして遠くを見る。まわりが見えないで筒の中だけが見えるので、見ている物に集中できる。これが一眼レフ。
親指と人差し指で L を作って両手で四角を作って画角を確かめる 「 」 これがレンジファインダー。全体が見えていて写る場所がカギカッコで囲まれる。まわりの状況も見えるからスナップ撮影に向いている。
さらに一眼レフとの違いは音の小ささ。一眼レフはミラーが上がって、シャッターが切れて、ミラーが降りる。一連の音が「カシャーンッ」と響く。レンジファインダーカメラはミラーがないので「カチャッ」と小さい。これもスナップ撮影に向いている。
なんどかテスト撮影をしてフレームの曖昧さや、露出の加減などを把握した頃「がんばった自分へのご褒美」で [Paris] に一週間一人旅に出かけた。
荷物はなるべく減らしたい。写真は精力的に撮りたい。ぴったり合うのが「ミノルタCLE」。

ロッコール90ミリF4
初めて行くパリのメインの目的は アンリ・カルティエ=ブレッソン のような「決定的瞬間」の写真を撮ること。メトロに乗りビュスに乗り5日間パリ周辺をスナップして廻った。

もう一つの目的はフランス製三脚「ジッツォ」を安く買うことだった。パリの比較的中心部にあるフォーラム・デ・アールにある「Fnac」という日本のYドバシカメラのような店に行ってみたが、日本のようにサンプルがおいてない。カウンターで頼むと店の奥から商品をだしてくるシステムのようだ。カウンターで「ジッツォ シルブプレ」と言ってみた。通じない。
「トライポッド」と英語で言ってみた。通じない。
フランス語で三脚のことを何というのかわからない。指三本を下に向けて「スリーレッグ」と言ってみた。
するとジッツォの写真付きカタログをだしてくれた。やっとカタログを指で指し、目当てのジッツォを買うことが出来た。たぶん日本で5万円位の物が3万円程で買えたと思う。ただし、帰りが大荷物になってしまった。

5日間で36枚撮りのポジフィルム30本ほどを撮影し、すっかりCLEは身体の一部になり、風のようにスナップが撮れるようになっていた。

しかしビックリしたのはそれからだ。
帰国して全てを現像して上がりをルーペでのぞいてみてビックリした。
写真に立体感がある。
ロッコール28ミリF2.8
一眼レフの28ミリでは見たこともない立体感が出ていて「これがレンジファインダーカメラなのか」と納得した。
レンジファインダーカメラと、一眼レフカメラではボディの構造だけでなくレンズに大きな違いがある。特に広角レンズに関しては全くレンズ構成が異なる。
たとえば、焦点距離28ミリとはレンズ構成の中心部からフィルムまでの距離のことである。これが小さくなると写る範囲が広くなる。28ミリとなるとレンズがボディ内部にめり込んだ形になる。レンジファインダーカメラなら何の問題もない。ところが一眼レフになるとボディ内部にはミラーがあるためレンズを内部にめり込ませることが出来ない。そこで、広角レンズではない標準レンズの前に強い凹レンズを置いて内部にめり込まない広角レンズを構成している。これをレトロフォーカスといったり、逆望遠型といったりする。
僕は常に逆望遠型広角レンズで撮影していて、本当の広角レンズを知らなかったのだ。

それから、僕は仕事でも積極的にCLEを使うようになった。特にモノクロ インタビュー物での出番が多くなった。インタビュー中を90ミリで、決めカットで40ミリと28ミリを使う。
暗室で8×10にプリントしていると写真の立体感に満足でき、プリント作業が楽しくなった。

そして、「これがライカの良さ」と思って満足していた僕は、後に本物のライカを手に入れてさらに驚きの世界に引き込まれて行くことになる。

0 件のコメント:

コメントを投稿